必要カロリーと工夫のポイント
一般的な方の1日に必要なカロリーは身長165cm余の方ならば標準体重は60kg、標準体重1kgあたり25kcalですから、約1500 kcalくらいです。
透析に来院して、4時間寝ているだけでカロリー消費はそんなにしていないと思われる方が多いのですが、透析の場合の必要カロリーは1.5倍2250 kcalにもなります。
でも、そんなにたくさん食べられないのにどうしたら良いの?という問い合わせを頂戴します。料理法によって、同じ食材でもカロリーはかなり違ってきます。
例えば、アジ1匹を刺身や焼魚で食べれば90 kcalくらいにしかなりませんが、煮たり、唐揚げにしたりすれば120 kcalにもなりますし、アジフライや餡掛けにすればその倍250 kcalも摂れてしまいます。
減塩のポイント
塩分を摂れば喉が渇いてついつい水を飲んでしまうので、塩分を摂らないようにと聞かされていますが、透析患者さんの中には「塩分は摂るけれども、水は飲まないから大丈夫」という方もいらっしゃいますが、本当にそうでしょうか?
皆さんは塩分を摂れば喉が渇きますが、皆さんの体の細胞1つずつも余計に入った塩分を薄めようとして、水分の吸収効率が上がります。食品に含まれる水分の吸収率が上がれば、やはり思った以上に水分で体重は増えてしまいます。
ヒトは年齢とともに味覚は鈍っていき、認知症が始まると更に怪しくなっていきます。人間にとって心地良い塩味というのは、本来の自分の体が持つ塩分濃度に近いと言われます。この濃度ならば、塩分を摂っても、体の中で悪い作用は出来ません。あるお店で、裏メニューで美味しいラーメンを食べさせてもらった時に、その亭主は「寸胴いっぱいのスープを作るのには塩は一つまみしか必要ない」と言われて驚きましたが、味の決め手は塩ではなく、旨味なのです。あるお宅のお手伝いさんが入院された時、家内の食事は不味くて適わないから1日も早く退院出来るようにならないかと相談されたことがありましたが、お手伝いさん曰く「奥様は出汁を引かずに減塩調理をなさいますから」。食材を塩分濃度の出汁に漬けておけば、美味しいおかずになります。
出汁を引くのが面倒な方は、急須の洗浄が簡単に済むように出ている茶漉しパックの中に、ミルで粗く擦った昆布や鰹節を入れて、ジップロック等で密閉保存して置かれれば、使いやすいですね。それすらも面倒と言われる方は、減塩出汁を使われても構いません。一般の市販の出汁は和風で40%、コンソメでは50%が塩ですから、呉々も手抜きはなさいませんように。
また、調味料の中でも比較的塩分の少ないマヨネーズ(大さじ3杯が塩分1g)やケチャップ(大さじ2杯が塩分1g)、ドレッシング(大さじ3杯が塩分1g)、減塩味噌等をスパイスと一緒に使われれば、減塩になります。1日6gを目安に頑張りましょう。
醤油は出汁で割ってスプレーに入れておけば、醤油を十分に感じられる上、通常のかけ醤油で摂られる塩分量の10分の1以下になります。
加工食品は保存の為に塩分やリンを多く含むものが多いので、なるべく避けましょう。
塩分1gの目安(調味料)
塩 | 小さじ1/5 |
醤油 | 小さじ1 |
減塩醤油 | 小さじ2 |
ウスターソース | 小さじ2 |
コンソメ | 小さじ2/5 |
和風だし | 小さじ1/2 |
味噌 | 小さじ1・1/3 |
ケチャップ | 大さじ2杯 |
マヨネーズ | 大さじ4杯 |
ドレッシング | 大さじ3杯 |
マーガリン | 小さじ20杯 |
カレールウ | 10g |
塩分1g 加工食品の目安
食パン | 75g | 5枚切り1枚 |
たらこ | 20g | 親指大 |
アジの干物 | 50g | 小1枚 |
メザシ | 40g | 中2匹 |
シラス干 | 25g | 大さじ2杯半 |
かまぼこ | 40g | 2切れ |
はんぺん | 67g | 1枚弱 |
さつま揚げ | 50g | 小判形1枚半 |
ちくわ | 50g | 半分 |
ウインナー | 50g | 2本半 |
ロースハム | 40g | 2枚 |
ボンレスハム | 30g | 1枚半 |
ベーコン | 50g | 2枚半 |
スライスチーズ | 30g | 1枚半 |
三角チーズ | 1個半 |
カリウム
カリウムというミネラルは塩分とともに必要不可欠です。塩分のナトリウムと一緒になって、細胞の内外での物質の出し入れに必要なポンプを動かしているからです。健康なヒトでは余分に摂ってしまった塩分を体の外へ出す働きもしてくれます。しかし、腎臓の機能が落ちてくると余分なカリウムを体の外へ出せなくなるので、ポンプはオーバーヒートを起こしてしまい、不整脈や動悸、心停止へと繋がります。
カリウムは瓜類、ドライフルーツ等の果物、芋等に多く含まれています。最近ではカリウムフリーのレタスやメロンがスーパーで手に入るようになってきて、グリーンサラダをバリバリ食べたいという時にはオススメですが、まだまだ高値です。
カリウムは水に溶け易いという性質を利用しましょう。レタス等の葉物は小さめに千切って、キュウリ等は薄くスライスして、流水に15分程度晒しましょう。温野菜サラダや野菜たっぷりの煮物を作る時には、カリウムの多い物は下茹でをして、茹でこぼしてから使います。電子レンジや蒸器ではカリウムは逃げません。果物はコンポートや缶詰のシロップを捨てて召し上がってください。おろし大根は汁は捨てます。
カルシウム
日本人はカルシウムが少ないってCMでよく見かけますが、高齢者や透析患者さんのレントゲンでは血管に鎧のように石灰化を認めます。
透析患者さんでは、余分なカルシウムは骨の構造に遊びがなくなり却って骨を脆くし、関節や血管に溜まり、関節痛や動脈硬化の原因ともなります。
もちろん、カルシウムは骨を作る重要な構成要素の一つですから、必要な量は摂らなければ骨はスカスカになってしまうでしょう。
肌のハリツヤが皮膚細胞の新陳代謝によるものであるのと同様に、骨の強さも骨の表面での造骨細胞と破骨細胞との活発なやりとりに左右されています。これを刺激するのは歩いて足の裏を刺激してやることです。適度な運動と十分なタンパク質の摂取は骨格筋も強くし、骨折しにくい体を作ります。タンパク質は透析で抜けてしまいますから、透析に入ったら週に1回以上はステーキを食べて良いと言われる程、タンパク質を十分に摂りましょう。
リン
カルシウムとともに骨に一番多いリンですが、体の中で余ったリンは尿で体外に出されます。出すことのできない場合には骨からカルシウムを引きずり出すので、骨が脆くなってしまいます。血中の余ったリンは余ったカルシウムと一緒になって、大きなトゲトゲしい塊となって血管の外へ出られなくなり、血管の内側を傷つけます。傷つけられた血管の内側の細胞は自分を骨芽細胞と勘違いをして、血管の内側に骨を作り出してしまいます。長い透析患者さんの手術中に血管を切ろうとすると、ポキッと音がするほどです。
余ったリンは1回3〜4時間の透析だけでは十分には除去出来ません。そこで、吸収される前の食直後にリン吸着剤を飲む必要があります。内服のタイミングが遅くなると、副作用の腹部膨満、吐気だけが出て、リン吸着できませんので、食直後のタイミングを逃さないようにしましょう。
このリンですが、植物性由来、動物性由来の有機リンと食品添加物、主に保存剤や乳化剤に含まれる無機リンとに分類されます。動物性由来の有機リンの吸収は約50%程度に対し、植物由来の有機リンは30%くらいと吸収され難く、ナッツ類のリンは人体には分解酵素がないので更に取り込まれる量は少なくなりますが、無機リンはほぼ100%吸収されてしまいます。リン、特に無機リンは水に流れ出し易い性質があります。
ここまでくれば、リンを減らすコツもわかりますね。ここまで述べてきた薄く切って流水にさらす、茹でこぼす、加工食品をなるべく使わない、骨ごと食べる魚や身にカルシウムの多い川魚は避けて、海の魚を切身で使うといったところです。冬場であれば、しゃぶしゃぶがオススメですが、シメの雑炊や麺は家族と一緒になって食べないように。なお卵は、卵黄はリンが多い食品の一つですが、卵白は非常にリンが少ないタンパク質の優等生ですから、食欲の落ちている時は卵白だけでも何とか、ホワイトオムレツ等にして摂れればと思います。これから暑くなると美味しくなるアイスクリーム等の乳製品やチーズや焼肉ですが、リンが多くなってしまうので、注意が必要です。アイスクリームやチーズは洗えませんからね。肉類の場合にはレバー以外のホルモンはリンが少ない食品ですから、これを上手に利用して下さい。
最後に日本人にとって大切な主食のお米ですが、お米は薄皮と表面近くにリンやタンパクが多く含まれています。リンを減らすにはパックになっている治療米も便利ですが、精米率の高い無洗米を使われば玄米の6分の1以下という、ほぼ同等のリンの削減となります。
ししゃも | 1匹半 |
ワカサギ | 1匹 |
どじょう | 2匹 |
あゆ | 半身 |
たらこ | 半分 |
いくら | 大さじ1 |
うに | 3切れ |
エビ | 2匹 |
ビーフジャーキー | 1/2枚 |
卵黄 | 1個 |
卵白 | 9個 |
うなぎ | 半くし |
アイスクリーム | 1個 |
ケーキ | 1個 |
アーモンド・カシューナッツ | 15粒 |
ピスタチオ | 55粒 |
海苔 | 5枚 |
きな粉・グリーンピース | 大さじ2 |
そば | 半玉 |
ご飯 | 2膳 |
スイートコーン | 半分 |
甘栗 | 10粒 |
牛乳 | コップ半分 |
油揚げ | 2枚 |
高野豆腐 | 1/3枚 |
厚揚げ | 半分 |
外食、中食
和食は1食で400~900 kcal、3〜7gの塩分になってしまいます。減塩でお願いできる場合は良いのですが、それ以外では汁物や漬物は残し、丼物は汁を少なめにしてもらいましょう。
中華はラーメンやチャーハン、中華丼等であれば400~700 kcal、塩分5g、中華定食ならば600~900 kcal、塩分5〜7gにもなりますし、化学調味料を使用しているお店の割合も高くなります。なるべく化学調味料を使っていないお店で、ラーメンは汁は残し、チャーハンは半分にする、中華丼はハム等の加工食品の具を少し残します。
洋食は500~900 kcal、塩分2.5〜5gと塩分は少なめですが、チーズやハム、ソーセージを避けて下さい。
お弁当等では漬物、梅干、ちくわやウインナー等の練り物や加工食品を減らし、付属の醤油等は使わないようにします。サンドイッチは1袋で2g余、おむすびは1個で1〜2g程度の塩分を含みます。塩分だけ摂れて栄養不足となりますので、十分気をつけましょう。お菓子では塩分が少なくカロリーの高いドーナツやどら焼き等がオススメです。
治療食というと高価なものになり勝ちですが、ちょっとした工夫で、美味しく食べて楽しい生活を送りましょう。